北側の川治温泉と併せて「傷は川治、火傷は滝」と称されてきた鬼怒川温泉。かつて鬼怒川温泉駅が「下滝」「大滝」であることから分かると思いますが、元は滝温泉という名前で、鬼怒川の西岸のみの温泉地でした。

残る廃墟

 ここは日光の徳川の領地にあたるため、江戸時代は東照宮の参拝帰りの大名が入湯し、一般人が利用することは制限されていました。明治時代になってこの地が一般に開放されると、反対側の東岸に藤原温泉が発見されます。その後、上流に水力発電所が完成し鬼怒川の水位が下がったことで、川底から新たな源泉が次々と発見されていき、昭和に入ってから滝、藤原やその他周辺の温泉を合わせて鬼怒川温泉と呼ぶようになりました。
 この頃から多くの旅館・ホテルが開業を始め、さらに戦後の高度経済成長期以降には鬼怒川温泉駅から鬼怒川公園駅までの間の鬼怒川沿いの両岸(滝地区と藤原地区)に数多くの大型リゾートホテル、旅館の建物が連なりました。これらの大型ホテル群は会社の慰安旅行などの団体客を取り込み、箱根、草津に並ぶ関東の一大温泉地としての地位をより強固なものにしていきました。
 しかし、この団体客相手を中心にした大人数用の料金設定や設備のままでの経営を続けたことが仇になります。バブル崩壊後の団体需要の減少や観光レジャーの多様化、温泉観光スタイルの変化などによって客足が一気に遠のいてしまったのです。交通アクセスもそこまで良いとは言えず、また温泉以外に有名な観光地が無いに等しい立地では立ち行かず、1995年に開設した新宿駅〜鬼怒川温泉間の高速路線バスも3年で撤退してしまうという惨状になってしまいました。さらに追い打ちをかけるように2003年にはこれらの経営が傾きつつあるホテル経営を融資で支えていた地銀の足利銀行が経営破綻。各ホテルは資金繰りに行き詰まり相次いで倒産しました。一部の旅館は売却の上で経営再建に向かいましたが、買い手が付かないものは解体されず放置されます。
 急速に衰退を始めた鬼怒川温泉でしたが、これにさらに追い打ちをかけるかのように2011年に東日本大震災が発生。直接の被害以上に原発事故による放射能の風評被害を受けてさらに客足は遠のき、宿泊客どころか日帰りの観光客まで激減。それまで逆境に苦しみながらも細々と自主経営を続けてきた中小旅館や土産物屋などの店舗も一斉に廃業に追いやられてしまいました。

 筆者は10年前に一度鬼怒川温泉に訪れていたので、今回ここまで衰えてしまった姿を見て衝撃を受けました。東武鬼怒川線の廃駅探索がメインのため鬼怒川線沿いの一部しか訪問していませんが、ちょうどこの渓谷沿い左岸の温泉街、旧国道121号線沿いの旅館が軒並み廃墟になっており、土産物屋や飲食店も廃墟になっている場所なので少しだけ紹介していきます。
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前回記事の大滝駅跡の向かいにある廃ホテル「鬼怒川観光ホテル 東館」
このホテルの右岸にある別館は今も営業しているそうですが、こちら側の建物は完全に放置されてしまっています。
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あまり荒らされているようには見えませんが、全体的に退色が進んでいます。
(川向きの部屋の方が酷い荒れ方だそうです。)
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それでも管理されていない植え込みでは植物が好き放題延びては枯れ果てていました。
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そして奥の非常階段?と思われる外階段は各段が錆びて抜け落ち、とても登れるような状態ではありません。
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開けたところから鬼怒川と対岸を眺めます。奥にまで多くの旅館の大きな建物が林立していますが、大半が廃墟だと考えるとすこしゾッとします。
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バブル期に改増築したと思わしき豪華絢爛な建物も、人っ子一人歩いていないゴーストタウンでは全くの無意味です。
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谷底には町営の温泉、足湯や駐車場などがあるのにも拘らずほとんど人は居ません。
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渓谷が深くえぐれているためこのような渓谷警告看板が立てられています。
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看板の立てられているここでは道幅が狭くなっていて…
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?????
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もう道路が崩れてる!!崩壊危険箇所じゃなくて崩壊箇所!!
いくら付近が廃墟と言えども国道なはずなのですが、直す気はあるのでしょうか。
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崩壊箇所の少し先にある「鬼怒川第一ホテル」はまだ営業して居るかのように整備されていますが…
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中は荒れ放題。床が比較的綺麗なので未だに人が管理しているのかもしれませんが、まるで夜逃げしたかのように扉が開け放たれていました。
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そして建物横の外階段は、「階段の状態を完全に失った」上に崩れてきた様々な物が降ってきていて、「外」階段では無くなっていました。興味本位から出来るだけ近づいて上の写真を撮りましたがあまりにも危険と判断し、すぐに撤収しました。
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そのお隣の「きぬがわ館本店」ももちろん廃墟。
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先ほどの二つの廃墟よりも荒れ果てています。
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こちらは見るからに荒らされたような跡が散見され、各入り口は塞がれていました。

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道路にせり出ている二階部分はいつ崩壊してきてもおかしくないほど劣化していました。
先ほどの崩壊地点といいこの建物といい、本当に大丈夫なのでしょうか。
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今回はごく一部しか見ることが出来ませんでしたが、今後対岸の廃墟群や、未だに残る「赤線地帯」の痕跡なども探索したいなと思います。

探索終了。(→次の廃駅訪問へ続く)